「世界の取扱説明書」ジャック・アタリ

「世界の取扱説明書」(2023年)ジャック・アタリ

石川県の海岸
世界はどこへ向かうか

概要

大統領顧問も務めたフランスの賢者が、世界の歴史を振り返り、将来を予測しています。東京駅の書店で見かけて以来、純粋な好奇心半分、自分の将来にも役立つのではないかという打算半分で気になっていました。この度、図書館でようやっと貸し出しの順番が回ってきました。

まず、大胆な予測に驚かされた部分から。本書では、紛争よりも気候変動のリスクの方が大きいのではないかという印象を受けました。例えば、2050年までに海面の上昇、沿岸部の侵食、台風の傾向の変化によって、日本で少なくとも400万人が水害の犠牲になるとあります。エジプトのアレクサンドリアは海面上昇によって地図から消滅。インドネシアのジャカルタも40%が水没。オーストラリアは年間を通じて気温が40度を超す可能性があり、居住不能になる恐れも。

続いて、日本に関連する予測。日本は将来的に核保有国になる(めちゃくちゃサラッと書いてあります)。一人当たりGDPは低迷し、世界26位に。他方、韓国は北朝鮮と統一しない限り、一人当たりの生活水準は世界1位。統一しても8位。→韓国も相当な少子化に苦しんでいますが、この差はどこから生まれているのか、もっと知りたいと思いました。所詮、フランスからして日本は周辺も周辺なので、あまり詳細に触れられていないのが残念ではあります。

次の「心臓」は?

また、特徴として、世界の中心となってきた「心臓」の都市を挙げています。ブリュージュ(1250〜1348年)→ベネチア(1348〜1453年)→アントワープ(1453〜1550年)→ジュネーブ(1550〜1620年)→アムステルダム(1620〜1780年)→ロンドン(1780〜1882年)→ボストン(1882〜1945年)→ニューヨーク(1945〜1973年)→カリフォルニア(1973〜2008年)→??

将来がどうなるのか、さまざまな仮説を検証しているため、ややわかりにくかったのですが、例えば、「心臓」のない状態では商業主義が行くところまで行き、医療費と教育費が削られて民営化が進む。究極的な実験を握るのはコンピューターで、人間はハイパーノマド、定住型の中産階級、下層ノマドの階層に分かれる。その結果、世界は袋小路に。

私たちはどうする?

ではどうするのか。著者は「実現の可能性が極めて低いことを承知している」と前置きした上で、「地球船宇宙号」的な考えを提示しています。人類全体が乗組委員となって利他的に振る舞い、地球規模の機関を作って船長となる。また、著者が「死の経済」と呼ぶ化石燃料を使う活動や肉、タバコ、アルコール、ビデオゲームなどの割合を減らし、「命の経済」と呼ぶ医療、予防、スポーツ、みず、リサイクル。文化、メディアなどを発展させていく。

どこまで現実になるか

壮大な内容のため、振り返りに随分と字数を使ってしまいましたが、なぜ最近これほどまでに環境、温暖化対策、多様性、サステナビリティと言われているのか、腑に落ちました。もちろん、危機的状況であることは理解していましたが、(多少誇張されているかもしれませんが)これほど差し迫った状況だったとは。また、今のSDGsが企業誘導型であることにも違和感を持っていたのですが、環境リスクはビジネスにとっても緊急性の高い脅威なんですね。

あとは、著者の予測がどこまで現実のものとなるか。「日本で水害の犠牲者が400万人」とは、流石にないだろうと思いますが、どうでしょうか。本人が言っている通り、提案されている解決策は実現が相当に困難そうで、どちらかといえば、利他主義よりも欲望、経済、テクノロジー優先の世の中にシフトしているように感じます。面白かったのが、スポーツ、楽器、歌、絵画、ボードゲーム、園芸などを奨励している点で、肉体回帰と解釈しました。バーチャルな生活が加速すると、欲望や経済が際限なく拡大してしまい、環境にも取り返しのつかないダメージを与えてしまうのかもしれません。

さて、これをどう自分の生活に落とし込むかですね。これまでも環境には割と関心があって、日々の暮らしに反映してきた(と言っても、プラスチックバッグをもらわないとか、できるだけエコフレンドリーな商品を選ぶとか、公共交通を使うとか、その程度)のですが。今更テクノロジーを捨てた生活にも戻れませんしね。ただ、欲望をコントロールすることが、鍵になると思いました。インデックス投資信者の私がいうのもなんですが。

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